名古屋高等裁判所 平成2年(ネ)206号 判決 1991年4月24日
主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二1 本件附帯控訴に基づき、原判決中乙事件に関する部分を次のとおり変更する。
控訴人の平成元年四月二三日開催の定時株主総会における別紙目録記載の各決議が不存在であることを確認する。
2 被控訴人らのその余の附帯控訴をいずれも棄却する。
三 原判決主文第三項中に「八〇〇株を超える四〇〇株」とあるのを「八〇〇株を超え更に四〇〇株」と、「一〇〇株を超える二〇〇株」とあるのを「〇〇株を超え更に二〇〇株」とそれぞれ更正する。
四 訴訟費用は第一・二審とも控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 控訴人
1 原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。
右部分につき被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
2 被控訴人らの附帯控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 (附帯控訴として)原判決主文第三ないし第六項を次のとおり変更する。
(一) 被控訴人Aと控訴人との間で、同被控訴人が控訴人の株式一二〇〇株の株主であること、被控訴人Aついと控訴人との間で、同被控訴人が控訴人の株式三〇〇株の株主であることをそれぞれ確認する。
(二) (1) (第一次請求)控訴人の平成元年四月二三日開催の定時株主総会における別紙目録記載の各決議は存在しないことを確認する。
(2) (第二次請求)控訴人の平成元年四月二三日開催の定時株主総会における別紙目録記載の各決議は無効であることを確認する(当審における追加請求。なお、従前の予備的請求を第三次請求に改めた。)。
3 訴訟費用は第一・二審とも控訴人の負担とする。
第二当事者の主張
次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決の訂正等
1 原判決四枚目表末行の冒頭に「昭和」を加え、同行及び同裏三行目の各「という」を「ともいう」と、同五行目及び同七行目の各「右」を「昭和六二年総会の決議後に登記された」と、同八行目の「瑕疵がないから」を「瑕疵がなく有効であると解すべきであるから」とそれぞれ改める。
2 同五枚目表一行目の「被告の」を「昭和六二年総会の決議後に登記された」と改め、同六枚目裏一行目の「、原告つい」を削り、同二行目の「されている」を「されており、また被控訴人ついも設立当初から一〇〇株の株主として扱われている」と改め、同七枚目表二行目の「A」を削る。
3 同八枚目裏五行目の「被告は」から同七行目末尾までを「被控訴人Aは、従前、控訴人の取締役兼代表取締役をしていたが、就任以来一度も株主総会を招集したことがない。」と改め、同末行の「不存在」の次に「である」を加える。
4 同九枚目表二行目冒頭から同五行目末尾までを次のおり改める。
「(二) (被控訴人らの名義株の取得及び承継取得の主張に対して)
仮に、被控訴人ら主張のとおり、被控訴人らが名義株を取得し、あるいは譲渡又は相続により株式を取得したとしても、被控訴人らは、株主名簿の名義書換えを経ていないので、控訴人にその取得を対抗することができない。」
5 同一〇枚目裏一行目の「株主総会」の次に「の」を加える。
二 当審における主張の付加
1 被控訴人らの第二次請求の原因
(一) 仮に、平成元年総会における決議が不存在でないとしても無効であるというべきである。
(二) しかるに、控訴人はこれを争うので、右決議の無効確認を求める。
2 控訴人の答弁
(一)を争い、(二)の事実を認める。
第三証拠関係(省略)
理由
第一被控訴人らの株主の地位確認請求について
一 確認の利益について
被控訴人Aは控訴人の一二〇〇株の株主である旨主張し、同ついは控訴人の三〇〇株の株主であると主張して、それぞれその確認を求めている。しかし、控訴人は、被控訴人Aにつき八〇〇株の限度で、同ついにつき一〇〇株の限度で、それぞれ被控訴人らが株主であることを認めており、右争いのない部分については、被控訴人らに確認の利益がないといわざるを得ないので、被控訴人らの訴えを却下すべきである。
二 次に、被控訴人らの株式のうち本件で争いのある部分(以下「本件係争株式」という。)について検討する。
控訴人の設立に当たって、定款上、Bが九〇〇株、被控訴人A及びCが各八〇〇株、D、E、F及びGが各一〇〇株の株主として記載されていること、並びに被控訴人ついも設立当初から一〇〇株の株主として扱われていることは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨及びこれにより真正に成立したものと認める乙第八号証によれば、控訴人においては株券が発行されていないこと、並びに控訴人の株主名簿には株主として右の者らの氏名、住所及び右のとおりの各自の持株数が記載されていることが認められるところ、被控訴人らは、右のうちB、F及びGの株式とされている合計一一〇〇株は、いわゆる名義株であって右三名は実質上の株主ではなく、右株式のうち各二〇〇株については被控訴人A及び同ついが、同じく三〇〇株についてはDが実質上の株主である旨、並びにDが昭和六一年四月一八日死亡したため、その株式合計四〇〇株のうち二〇〇株を被控訴人Aが遺産分割協議により相続した旨主張し、控訴人は、被控訴人らの持株数は株主名簿に記載されている数だけであると主張しているので、結局、本件係争株式は、株主名簿に被控訴人らが株主として記載されていない株式であるということができる。
ところで、商法二〇六条一項は、「株式ノ移転ハ取得者ノ氏名及住所ヲ株主名簿ニ記載スルニ非ザレバ之ヲ以テ会社ニ対抗スルコトヲ得ズ」と規定しているところ、右規定は、株主の権利が継続的、反復的、集団的に、しかも絶えず変動する株主によって行使されるという実態に対応するための技術的処理として、株主名簿の記載により会社と株主との関係を画一的に処理するために設けられたものであるから、単に株式の移転の場合に限ってその対抗要件を定めたに止まらず、およそ会社に対して株主たることを主張するすべての場合についての対抗要件を定めたものと解すべきである。したがって、会社に対して株主たる地位にあることを主張する者は、その取得原因として譲渡や相続を主張する場合はもとより、他人名義で取得したいわゆる名義株の実質上の株主であることを主張する場合においても、株主名簿に自己の氏名及び住所が記載されていることが必要であると解される。そして、右規定が対抗要件を定めたものであることからすると、会社が自ら進んで右の実質関係を認め、株主名簿に記載されていない者を株主として取り扱うことは差支えないが、たとえ会社が株主名簿上の株主が無権利者であって実質上の株主は他にいることを知っている場合でも、名義書換え前の株主は、特段の事情のない限り、右のことを理由に会社に対して株主たる権利を主張することはできないというべきである。しかし、実質上の株主が会社に対して名義書換えを要求したのに会社がこれを正当な理由なく拒絶した場合又は実質的にこれと同視し得る場合には、右特段の事情があるものとして、会社は、名義書換えがされていないことを理由に株主であることを否認することはできないと解するのが相当である。
右の見地に立って本件について検討する。
1 前記争いのない事実並びに成立に争いのない甲第一号証の一ないし九、第二号証、第七号証、第八号証の一、第一一号証、第一二号証の一、二、乙第四号証、第五号証(一部)、原審証人Hの証言とこれにより真正に成立したものと認める乙第二号証、原審及び当審における控訴人代表者尋問の結果(一部)とこれにより真正に成立したものと認める乙第一二ないし第二四号証、原審証人Bの証言(一部)、原審における被控訴人A本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 控訴人の前身は、昭和四〇年一月に被控訴人Aを営業主、C(同被控訴人の弟)を取引主任者、商号を光伸不動産として、共同で始めた個人事業であり、営業利益は、被控訴人Aが六割、Cが四割の割合で分配していた。
(二) 昭和四五年に右個人事業を法人化して控訴人が設立されたところ、控訴人の定款上、右設立の際に発起人の引き受けた株式数は、B(光伸不動産の従業員)が九〇〇株、被控訴人A及びCが各八〇〇株、D(同被控訴人及びCの父)、E(Cの妻)、F(Bの妻)及びG(Dの子Hの夫)が各一〇〇株と記載されているが、必要な株式払込金は、Cにおいて、被控訴人Aとの共同事業によって得られた分配前の利益金の中から全額払い込んだ。なお、被控訴人つい(同Aの妻)は、一般公募に応じた形で株主となった。
(三) Bは、昭和四三年に個人事業であった頃の光伸不動産に入社して勤務するようになり、同人の関与した不動産売買等の手数料収入の二割を歩合給として受け取っていたところ、控訴人設立後は取締役として登記されたが、従前と同様の給与を得ており、控訴人の運営について発言することはなく、昭和四八年四月三〇日に退社して取締役も辞任し、その旨の登記も経由されたが、退社時に同人の株式をどうするかという点について関係者間で何らの話合いもされなかった。
(四) Gは全く名目上の株主にすぎなかった。
(五) 被控訴人A及びCの父であるDは昭和六一年四月一八日死亡したところ、同年一〇月一四日の遺産分割協議によりDの遺産として控訴人の株式四〇〇株が分割の対象とされ、被控訴人A及びCがこれを二分の一宛を取得するものとされた。そして、Cは、その後の昭和六三年二月二九日、遺産分割協議書に被控訴人Aが取得すべき控訴人の株式二〇〇株の評価額として記載されている五四万六六〇〇円を同被控訴人名義の預金口座に振り込み、同被控訴人は、このような金員を受領する理由がないとして間もなくこれを返還した。
(六) 控訴人は、その法人税申告書において、株主の出資金額につき、昭和四九年三月から昭和五〇年二月までの事業年度は被控訴人A、C及びDが各五〇万円(一〇〇〇株)、同年三月から昭和五一年二月までの事業年度は被控訴人A及びCが各五〇万円、Dが四〇万円(八〇〇株)、被控訴人つい及びEが各五万円(一〇〇株)、同年三月から昭和六一年二月までの各事業年度は被控訴人A及びCが各五〇万円、同つい及びEが各一五万円(三〇〇株)、Dが二〇万円(四〇〇株)、同年三月から昭和六二年二月までの事業年度は被控訴人A及びCが各六〇万円(一二〇〇株)、同つい及びEが各一五万円(三〇〇株)と記載されていた。
以上の事実が認められ、右の事実によれば、B、F及びG名義の各株式はいわゆる名義株であり、これらの者は実質上の株主ではなく、昭和六一年二月現在、被控訴人Aが一〇〇〇株、同ついが三〇〇株の株主であり、残りがD(四〇〇株)、C(一〇〇〇株)及びE(三〇〇株)の有する株式であると認めるのが相当である。乙第一号証、第五号証の各記載並びに原審証人B・原審及び当審における控訴人代表者の各供述中には、控訴人設立時にBが同人分九〇〇株及びF分一〇〇株の株式払込金五〇万円を支払った旨の部分がみられるが、右記載及び供述は裏付けを欠き、本項冒頭掲記の証拠に照らして措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 被控訴人A及びCがいずれもDの子であり相続人であること、並びに昭和六一年一〇月一四日、相続人間でDの遺産につき分割協議がされたことは当事者間に争いがなく、右事実に前掲甲第八号証の一及び弁論の全趣旨を併せると、被控訴人A及びCは、Dの株式を各二〇〇株宛相続により取得したものと認めることができる。
3 被控訴人らが控訴人に対して本件係争株式の名義書換えを請求してこれを拒絶されたことについては、何らの主張立証もない。
以上の事実関係によれば、本件係争株式は、被控訴人らの主張するとおり被控訴人らに帰属するものであるが、被控訴人らが控訴人によって名義書換えを正当な理由がなく拒絶されたということができないことは明らかである。しかしながら、被控訴人らは、本件訴訟において、控訴人に対し本件株式の株主であることの確認を求めているところ、控訴人は、被控訴人らが本件係争株式を取得したことはないと主張してこれを争っているのであって、被控訴人らが控訴人に対して名義書換えを請求したとしても、控訴人がこれを拒絶することは明らかである。また、控訴人が過去にその法人税申告書に前記のような記載をしていたこと、控訴人の代表者であるCと被控訴人Aとが、Dの株式を各二〇〇株宛取得する旨の遺産分割協議書を作成していることに照らせば、控訴人は、本件係争株式が被控訴人らに帰属している事実を知っており、かつ、そのことを容易に証明し得る状態にあるのであって、仮に、控訴人が被控訴人らの名義書換え請求を拒否したとすれば、正当な理由なく拒否したものと評価すべきことになるということができる。右のような事情がある場合には、控訴人が被控訴人らの名義書換え請求を正当な理由なく拒絶した場合と実質的に同視することができるので、被控訴人らは、本件係争株式について名義書換えを経ていないけれども、右株式の株主たる地位を控訴人に対抗することができるものというべきである。
したがって、被控訴人らの株主たる地位の確認請求は、本件係争株式についてはいずれも理由があるので、これを認容すべきである。
第二昭和六二年総会及び平成元年総会の決議不存在確認請求並びに被控訴人Aの取締役兼代表取締役の地位確認請求について
一 まず、控訴人の本案前の主張について判断する。
控訴人は、仮に昭和六二年総会の決議が不存在であるとしても、平成元年総会の決議に瑕疵がなく適法に成立したものと認められる以上、昭和六二年総会の決議の不存在の確認を求める請求は、法律上の利益を欠き不適法である旨主張する。しかし、後記のように、平成元年総会の決議は法律上不存在であるというべきであるから、控訴人の右主張は理由がなく、採用することができない。
二 そこで、本案について検討する。
1 被控訴人Aがもと控訴人の取締役兼代表取締役であったことは、当事者間に争いがなく、右の事実に前掲甲第一号証の一ないし九、第二号証、成立に争いのない甲第一三号証の一、二、乙第九号証、原審証人Hの証言により真正に成立したものと認める乙第一〇号証、右証言、原審における被控訴人A本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(一) 控訴人は、昭和四五年に設立され土地建物の売買賃貸借の仲介斡旋等を目的とする発行済株式総数三〇〇〇株の株式会社であり、被控訴人らはいずれも控訴人の株主である(この事実は争いがない。)。
(二) 控訴人においては、定款で、取締役は三名以上五名以内とし、その任期は二年とし(但し、最初の取締役の任期は就任後第一回目の定時株主総会の終結に至るまでとする。)、設立当初の取締役として、被控訴人A、C及びBの三名が選任、登記され、被控訴人Aが代表取締役として選任、登記された。
(三) (1) 控訴人の商業登記簿上の取締役に関する記載をみると、昭和四六年五月一二日、同年四月三〇日に被控訴人A、C及びBの三名が選任(重任)された旨の登記がされ、昭和四八年五月一四日、同年四月三〇日にBが退任し、I(就任)並びに被控訴人A(代表取締役)及びC(各重任)がそれぞれ選任された旨の登記がされ、以後、昭和六〇年四月三〇日まで右三名が二年毎に選任(重任)されてきた旨の登記がされている。
(2) また、昭和六三年三月七日、昭和六二年四月三〇日にCが取締役兼代表取締役に、J及びBが取締役(なお、Eが監査役)にそれぞれ選任された旨の登記がされ(この事実は争いがない。)、更に、平成元年四月二六日、同月二三日に右三名が取締役(Cが代表取締役)に選任(重任)された旨の登記が経由されている。
(四) しかし、被控訴人Aは、代表取締役の地位に就いてから本件紛争が発生するまで一度も株主総会を招集したことがなく(この事実は争いがない。)、昭和六二年総会を開催したこともなかった。
(五) 被控訴人らは、昭和六三年七月一五日に甲事件の訴えを提起し、被控訴人Aが一二〇〇株、同ついが三〇〇株の株主であると主張し、これに対し、控訴人は、これを争い、被控訴人Aが八〇〇株、同ついが一〇〇株の株主であるにすぎず、被控訴人ら主張の株式のうちその余はB、F及びHらが有するものである旨主張していた(この事実は当裁判所に顕著である。)。Cは、平成元年四月六日、控訴人の代表取締役として、控訴人が株主であると主張する被控訴人A、同つい、B、E、F及びHに対し、同月二三日に定時株主総会を開催する旨の招集通知を発したが、これに対し、被控訴人らは、代理人大山弁護士名義の同月一七日付け書面により、右総会が権限のない者により招集された違法なものであり、かつ、総会の運営が真実の持株数を無視した不当なものとなることが明らかに予想されるとして、右総会に出席しない旨通知して欠席した。右総会は予定どおり開催され、C、EのほかB及びHが株主として出席し、Fが委任状により株主として議決権を行使し、結局、出席株主五名(その持株数は二〇〇〇株とされた。)の全員一致により別紙目録記載の各決議がされた(Cが代表取締役として株主総会招集通知を発し、株主総会が開催され、別紙目録記載の各決議がされたことは争いがない。)。
(六) なお、被控訴人Aが取締役兼代表取締役を辞任したことはなく、平成元年総会における役員選任の決議は、取締役及び監査役の任期満了に伴うものとしてされたものである。
以上の事実が認められる。
2 (一) 右の事実関係によれば、控訴人の設立当初に取締役として選任された被控訴人A、C及びBの任期はすでに満了しているが、控訴人は商法二五五条に定める取締役の員数を欠くことになるので、同法二五八条一項に基づき、右三名は、新たに選任された取締役が就任するまで、引き続き控訴人の取締役としての権利義務を有するものというべきであり、また、同法二六一条三項、二五八条一項に基づき、被控訴人Aは、同様に、引き続き代表取締役としての権利義務を有するものというべきである。そして、控訴人の商業登記簿上は、その後、任期満了に伴い新たな取締役が選任され、昭和六二年四月三〇日にC、J及びBが取締役に選任された旨の登記がされているが、控訴人においては、被控訴人Aが取締役兼代表取締役に就任して以来平成元年総会が開催されるまでは一度も株主総会が開催されたことがなく、したがって、設立当初に選任された取締役のほかには、取締役を選任する旨の決議が存在しなかったのであるから、このような場合には、選任決議がないにもかかわらず取締役に選任されたものとして登記された者によって構成される取締役会は正当な取締役会とはいえず、かつ、その取締役会で選任された代表取締役も正当に選任されたものではなく株主総会の招集権限を有しないから、このような代表取締役が招集した株主総会において新たに取締役を選任する旨の決議がされたとしても、その決議は、いわゆる全員出席総会においてされたなど特段の事情がない限り、法律上存在しないものといわざるを得ない。したがって、この瑕疵が継続する限り、以後の株主総会において新たに取締役を選任することはできないものと解される。そして、本件においては、前記のような特段の事情が存在することについての主張立証はない。
そうすると、昭和六二年四月三〇日当時、被控訴人A、C及びBの三名が控訴人の取締役としての権利義務を、また、被控訴人Aが代表取締役としての権利義務をそれぞれ有していたというべきであるから、同日、株主総会において取締役に選任されたとされるC、B及びJの三名によって取締役会が開催され、そこでCを代表取締役に選任する旨の決議がされたとしても、右三名のうち取締役としての権利義務を有する者はC及びBの二名だけにすぎないうえ、代表取締役としての権利義務を有する被控訴人Aが取締役を退任したものとして扱われていることに照らすと、同被控訴人に対して取締役会の招集通知はされていないと推認されるので、右の決議は、招集通知を欠いた被控訴人Aが出席してもなお決議の結果に影響を及ぼさないと認めるべき特段の事情の認められない限り無効と解すべきところ、本件においては、右特段の事情が存在することについての主張立証はない。したがって、被控訴人Aは、依然として控訴人の代表取締役としての権利義務を有するものというべきである。
(二) 次に、平成元年総会における決議について検討するに、以上に検討したところによれば、同総会の招集が当時取締役とされていたC、B及びJの三名によって構成される取締役会によって決議されたとしても、前記と同様の理由により有効な取締役会の決議があったものということはできず、また、Cも正当な代表取締役とはいえないことは前記のとおりであるから、特段の事情が存在することについて主張立証がないので、平成元年総会における決議は、法律上存在しないものといわざるを得ない。
3 (一) 昭和六二年総会の決議が不存在であることについて、控訴人がこれを争っていることは当事者間に争いがない。
ところで、控訴人においては、被控訴人Aが代表取締役として行動していた当時においても株主総会が開催されたことがなかったことは前記のとおりであるが、そうであるからといって、被控訴人らが株主総会決議の不存在確認を求めることが権利の濫用であるとすることはできず、また、控訴人における株主構成が前記のようなものである以上、正当な株主構成により決議が行われれば、控訴人主張の決議と同様の決議がされたことが明白であるとは到底いえず、その他被控訴人らの請求が権利の濫用に当たることを認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人の抗弁(一)は採用することができない。
以上のとおりであるから、昭和六二年総会の決議不存在確認を求める被控訴人らの請求は理由があり、認容すべきである。
(二) 控訴人が平成元年総会における各決議が不存在であることを争っていることは、当事者間に争いがないところ、右総会における各決議が法律上不存在であることは前記のとおりであるから、右決議の不存在確認を求める被控訴人Aの請求は理由があり、認容すべきである。
(三) 控訴人が被控訴人Aが控訴人の取締役兼代表取締役の地位にあることを争っていることは、当事者間に争いがないところ、平成元年総会における各決議が不存在であることは前記のとおりであり、したがって、前記説示に鑑み、同被控訴人は依然として控訴人の取締役兼代表取締役としての権利義務を有するものというべきであるから、その確認を求める被控訴人Aの請求は理由があり、認容すべきである。
よって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、本件附帯控訴に基づき、原判決中乙事件に関する部分を右のとおり変更し、その余の附帯控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、原判決主文第三項には明白な誤謬があるので、民訴法一九四条に則りこれを主文第三項のとおり更正し、訴訟費用の負担につき同法九六条、八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 野田宏 裁判官 瀬戸正義 裁判官 園部秀穗)
別紙
目録
1 C、J、Bを取締役に、Eを監査役にそれぞれ選任する旨の決議
2 昭和六三年三月一日から平成元年二月二八日までの事業年度に関する貸借対照表、営業報告書、損益計算書及び利益処分案の承認決議